編集後記末
最後に、歩き方。
まずは猿沢池で塔の影をしばらく眺め、五十二段の喧騒を避けて南へ折れると、元興寺の門が待っている。極楽坊本堂と禅室の屋根を見上げれば、灰や茶のまだらに混じる古瓦——日本最古と伝わる瓦が、今も雨を受けている事実に少し背筋が伸びる。境内を出て路地を西へ進めば、ならまち格子の家。表は格子で締まり、内は奥へ奥へと細長く伸びる「うなぎの寝床」の造りを、土間を歩きながら身体で覚える。光と影の交互に少し目を慣らしてから、御霊神社へ。狛犬の足にひもを結ぶ足止め祈願と縁結びの言い伝えに手を合わせ、最後は奈良町資料館で軒先に揺れる赤い身代わり申を見上げて、街歩きをそっと閉じる。古寺から町家、神社、資料館へと、奈良の暮らしが薄く積もった層をひと筋ずつめくっていく道のりだった。路地は狭く一方通行も多いので、車より自分の足で測るほうがこの街には合っている。各施設とも夕の早い時間に門を閉じるから、池に着くのは午前の早めがちょうどいい。雨の日なら屋根の下——格子の家、資料館、元興寺の堂内——に長く腰を据え、御霊神社は短く参拝に切り替えれば、濡れずに余韻だけ持ち帰れる。なお拝観料や開館の時間、休館日はその時々で動くものなので、出かける前に各施設の公式の案内で一度たしかめておくと安心だ。