マチノワ · 2026年 春号
G10-02·2026-06-14·約4分
DAIGOJI

醍醐寺を歩く。
五重塔と三宝院の庭

地下鉄醍醐駅の地上に出ると、市街の喧騒がすっと遠のく。住宅地のゆるい坂を上っていくにつれ、空気にどこか湿った土と杉の匂いがまじりはじめる。総門をくぐった瞬間、左右に伸びる桜並木の枝が頭上で交差して、夏の光をやわらかく漉していた。砂利を踏む自分の足音がやけに大きく聞こえる。秀吉が花見に酔いしれたという山裾の寺は、観光地の顔をしながら、奥へ進むほど静けさを深くしていく。きょうはこの参道を、玄関の庭から山際の池まで、ゆっくりたどってみることにする。

副題

京都・伏見区醍醐/DAIGOJI

編集

マチノワ編集部

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厳選5

京都・伏見区醍醐/DAIGOJI

順位ではなく、編集部が選んだ5スポットを順にご紹介します。地下鉄醍醐駅の地上に出ると、市街の喧騒がすっと遠のく。住宅地のゆるい坂を上っていくにつれ、空気にどこか湿った土と杉の匂いがまじりはじめる。総門をくぐった瞬間、左右に伸びる桜並木の枝が頭上で交差して、夏の光をやわらかく漉していた。砂利を踏む自分の足音がやけに大きく聞こえる。秀吉が花見に酔いしれたという山裾の寺は、観光地の顔をしながら、奥へ進むほど静けさを深くしていく。きょうはこの参道を、玄関の庭から山際の池まで、ゆっくりたどってみることにする。

SPOT01
庭園・国宝書院 · 京都市伏見区醍醐

三宝院庭園

総門を入ってまず右手に現れるのが、この寺の本坊にあたる三宝院だ。表書院の縁に腰を下ろすと、目の前に池泉の庭がひらける。慶長3年の醍醐の花見にあたって秀吉自身が基本設計を引いたと伝わる庭で、刈り込みの曲線と力強い石組みが同居している。視線が吸い寄せられるのは、池のほとりに据えられた藤戸石。歴代の天下人が手元に置きたがったというこの一石が庭の重心になっていて、ただ美しいだけでなく、権力者が石ひとつに込めた執着まで透けて見えてくるのがこの庭の面白さだ。縁先に座ったまま、しばらく動けなくなる。

指定国の特別史跡・特別名勝
見どころ藤戸石・表書院(国宝)
備考庭の一部は特別拝観で公開
SPOT02
山門・重要文化財 · 京都市伏見区醍醐

仁王門(西大門)

三宝院を出て参道を奥へ進むと、朱の柱が目に飛び込んでくる。下醍醐の伽藍へ入る門で、秀頼が慶長10年に再建させたものだ。立ち止まって見上げると、左右の金剛力士像の筋肉の張りに気圧される。口を開いた阿形と、結んだ吽形。実はこの二体、門より四百年あまり古い長承3年に勢増・仁増という仏師が彫ったもので、もとは南大門に立っていたという。新しい門に古い仁王が収まっているこのちぐはぐさを知ってから見上げると、像の表情がいっそう生々しい。ここをくぐると、空気がまた一段ひんやりする。

再建慶長10年(1605)
金剛力士像重要文化財・平安後期作
SPOT03
本堂・国宝 · 京都市伏見区醍醐

醍醐寺 金堂

仁王門の先、木立が切れて広い空が戻ってくるあたりに、どっしりと構えているのが金堂だ。屋根の反りが大きく、近づくほど軒の深さに包まれる感覚がある。堂の内には本尊の薬師如来が座す。面白いのは、この建物そのものが京都生まれではないこと。秀吉の命で紀州湯浅の寺から運ばれ、慶長5年に秀頼の代で組み上がったと伝わる。つまり目の前の柱や梁は、海を越え山を越えて醍醐の地に据え直された材なのだ。そう思って格子の奥を覗くと、薄暗がりにともる灯が、よその土地の記憶ごとこの堂を照らしているように見えてくる。手を合わせる人の背中が、しんと静かだった。

指定国宝
本尊薬師如来坐像
落慶慶長5年(1600)
SPOT04
国宝・塔 · 京都市伏見区醍醐

醍醐寺 五重塔

金堂から少し南へ目を移すと、木々の上に塔身が抜けている。天暦5年に醍醐天皇の冥福を願って建てられたこの五重塔は、京都府内に現存する木造建築のなかで最も古い。高さおよそ38メートルのうち、上に伸びる相輪だけで全体の三分の一を占めるという独特の均衡で、だから見上げると塔がやけに天へ向かって長く感じられる。千年のあいだ、応仁の乱の戦火も京都の度重なる災いもくぐり抜けて、この一塔だけが倒れずに残った。初層内部の板壁には両界曼荼羅などが描かれているが、通常は外からの拝観で、塔の内側を覗ける機会はかぎられる。芝に立って首を反らせ、相輪の先が空に溶けていくのをただ眺めていた。

指定国宝
建立天暦5年(951)
高さ約38メートル
SPOT05
お堂・池畔 · 京都市伏見区醍醐

弁天堂

伽藍を抜けてさらに奥へ歩くと、参道は林泉と呼ばれる小さな池のほとりに行き着く。池の縁に建つ朱塗りの弁天堂は昭和初期、醍醐天皇千年の御忌に合わせて建てられた比較的新しい堂で、祀られているのは音楽や学芸の神とされる弁才天だ。けれど新旧はここではあまり意味をなさない。秋にかえでや銀杏が色づくと、朱の堂と燃える葉が水面に映り込んで、池がもう一つの絵を抱える。この日はまだ青葉だったが、それでも水鏡に逆さまの堂が静かに揺れていて、伽藍の重厚さとはまた違う、息のつける景色だった。橋を渡る足音だけが、こつ、こつと響いていた。

建立昭和5年(1930)
見頃秋の紅葉期
編集部のひとこと
奥へ歩くほど、寺は静かになっていく
マチノワ編集部
編集後記

最後に、歩き方

弁天池のほとりのベンチで、しばらく水面を眺めていた。来た道を振り返ると、玄関先の磨かれた庭から、桃山の権勢を映す堂宇、平安以来の塔、そして山の縁の小さな弁天堂まで、千年分の時間がひと続きの参道に並んでいたことに気づく。醍醐寺は広い。一日かけても上醍醐の山上までは届かなかった。それでも下醍醐をゆっくり歩いただけで、足の裏に残る砂利の感触ごと、この寺の懐の深さが伝わってくる。なお、拝観の区分や料金、特別公開の有無は時期で変わるので、出かける前に醍醐寺の公式サイトに一度目を通しておくと迷わない。坂を下りる頃には、入ってきたときの匂いがもう懐かしかった。

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