マチノワ · 2026年 春号
G10-03·2026-06-14·約5分
KAMO SHRINES

上賀茂・下鴨を歩く。
糺の森と賀茂の二社

朝のうちに北区へ上がってしまうのがいい。バスを降りて鳥居をくぐると、まず空気の湿り気と光の差し方が変わる。境内を流れる細い御手洗川の、浅くて澄んだ水音。その向こうに朱の楼門が立ち、白い砂を円錐に盛り上げた二つの立砂が、よく晴れた朝の光を受けている。京都の市街地の喧騒からほんの少し外れただけで、ここはもう別の時間が流れている。賀茂川をさかのぼった先の上賀茂と、その川がもう一本の流れと出会う三角州のほとりの下鴨——二つの社を、川と森をたどりながら南へ歩いていく半日の話。

副題

KAMO SHRINES|京都・北区/左京区

編集

マチノワ編集部

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厳選5

KAMO SHRINES|京都・北区/左京区

順位ではなく、編集部が選んだ5スポットを順にご紹介します。朝のうちに北区へ上がってしまうのがいい。バスを降りて鳥居をくぐると、まず空気の湿り気と光の差し方が変わる。境内を流れる細い御手洗川の、浅くて澄んだ水音。その向こうに朱の楼門が立ち、白い砂を円錐に盛り上げた二つの立砂が、よく晴れた朝の光を受けている。京都の市街地の喧騒からほんの少し外れただけで、ここはもう別の時間が流れている。賀茂川をさかのぼった先の上賀茂と、その川がもう一本の流れと出会う三角州のほとりの下鴨——二つの社を、川と森をたどりながら南へ歩いていく半日の話。

SPOT01
神社 · 京都市北区上賀茂本山

上賀茂神社(賀茂別雷神社)

朱の一の鳥居をくぐると、芝生の参道がまっすぐ二の鳥居まで伸びている。その先、細殿の前に現れるのが、円錐形にきれいに盛られた二つの砂の山——立砂だ。これは社の北にそびえる神山にかたどったもので、ご祭神が天から降り立ったと伝わる山影を、砂で写し取っている。玄関先の盛り塩や、鬼門にまく清めの砂は、もとをたどればこの二つの山にゆきつくという。境内を歩いていて何より印象に残るのは、ならの小川がさらさらと流れ続けていること。神社というと静止した荘厳さを思い浮かべるけれど、ここはずっと水が動いていて、音がやまない。橋を渡り、せせらぎ沿いに進むと、まだ夏の朝なのに足もとだけ涼しい。

拝観境内自由(特別拝観は別途)
見どころ立砂・細殿・ならの小川
SPOT02
森・参道 · 京都市左京区下鴨泉川町

糺の森

賀茂川沿いに南へ下り、左京区へ入ると、ふいに道の先が暗くなる。糺の森だ。ケヤキやエノキ、ムクノキの巨木が頭上で枝を組み、参道は緑のトンネルになっている。十二万平方メートルあまりというこの森は、平安より前の山城のおもかげを今に伝える原生林で、世界遺産の一部にも数えられている。一歩入ると、さっきまで照りつけていた日ざしがふっと和らぎ、体感の温度がはっきり下がるのがわかる。鳥の声と、足もとを流れる泉川のかすかな水音だけが響く。『方丈記』を書いた鴨長明は、この森に縁のある家に生まれた。木洩れ日の落ちる土の道を踏みしめながら、八百年前の人も同じ薄暗がりを歩いたのかと思うと、足取りがすこし慎重になる。

区分原生林・世界遺産(下鴨神社境内)
歩く森を貫く約600mの表参道
SPOT03
神社 · 京都市左京区下鴨泉川町

河合神社

森の参道を南側から入ってすぐ、左手にこぢんまりとした社が現れる。下鴨神社の摂社・河合神社で、ご祭神は神武天皇の母にあたる玉依姫命。女性を守る神として古くから信仰を集めてきた。ここで目を引くのが、手鏡そっくりのかたちをした鏡絵馬だ。表に描かれたのっぺりした顔に、自分の化粧道具や色鉛筆で目鼻を描き入れ、裏に願いと名を記して奉納する。机の上に並んだ奉納済みの絵馬を眺めていると、描き手それぞれの「なりたい顔」がにじんでいて、しばらく見飽きない。森の奥には、鴨長明が晩年を過ごしたという小さな庵を復元した建物も置かれている。賑やかな本宮とは違う、森にうずもれた静かな時間がここには流れている。

区分下鴨神社 摂社
授与鏡絵馬(最新の初穂料は社頭で確認を)
SPOT04
神社 · 京都市左京区下鴨泉川町

下鴨神社(賀茂御祖神社)

森が途切れると、視界がひらけて朱塗りの楼門がそびえる。下鴨神社、正しくは賀茂御祖神社。上賀茂の祖にあたる神々を祀る古社で、上賀茂とあわせて賀茂の二社と呼ばれる。門をくぐる手前、左手には相生社があり、二本の木が途中で一本に結ばれた御神木・連理の賢木が立つ。縁結びの木として知られるこの一本は、何代も植え継がれてきたものだという。本殿に手を合わせたあと、ぜひ立ち寄りたいのが御手洗社。社殿が湧き水の池の上に建てられていて、夏には足を浸して無病息災を願う神事も営まれる。みたらし団子の名は、この池に湧く水の泡にちなむと伝わる。森の冷気と湧き水の冷たさが地続きで、上流から流れてきた水の物語が、ここでひとつ閉じる感覚があった。

拝観境内自由(大炊殿などの特別拝観は別途)
見どころ楼門・相生社・御手洗社
SPOT05
川辺 · 京都市上京区・左京区(出町柳)

賀茂大橋と鴨川デルタ

下鴨神社の参道を南へ抜けきると、急に空が大きくひらける。賀茂大橋のたもと、西から下ってきた賀茂川と東からの高野川がちょうど合流する地点で、その股のあいだに突き出した緑の三角州が、鴨川デルタと呼ばれる場所だ。川面には亀や千鳥をかたどった飛び石が点々と並び、子どもも大人も、めいめいの調子で対岸へぴょんぴょんと渡っていく。土手に腰を下ろして見ていると、上賀茂で立砂のあいだを流れていたならの小川も、糺の森を潤していた泉川も、結局はこの一本の流れへ集まってくるのだとわかる。ばらばらに歩いた半日が、足もとの水で一つにつながる。橋の上から眺めると、二色の川がVの字に交わって、ゆっくりと南へ去っていくのが見えた。

立地賀茂川・高野川の合流点
歩くデルタの飛び石・川べりの土手
編集部のひとこと
川の音が、ずっと足もとについてくる。
マチノワ編集部
編集後記

最後に、歩き方

出町柳の駅前まで降りてきて、ふり返ると、歩いてきた方角の空がまだ森の緑をうっすら映している気がした。上賀茂で見た二つの砂の山、糺の森のひんやりした薄暗がり、御手洗の湧き水の冷たさ——別々の場所のはずなのに、ぜんぶ一本の川の話としてつながっている。賀茂の二社は、神社を巡ったというより、川をひとつ下ったという感覚で終わる。汗ばんだ手のひらを、最後にもう一度デルタの流れにひたした。冷たい。半日ぶんの暑さが、そこからすっと抜けていった。なお、拝観時間や授与品の値段は折にふれて変わるので、出かける前にそれぞれの社の公式の案内に目を通しておくと安心だ。

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